月光荘

SPECIAL
RECOMMEND
GALLERLY
COLUMN
ADVERTISE

2008/07/05 ISSUE

SPECIAL

SPECIAL

2008年7月号の特集記事です。
今月はQuick Japanなどにも掲載されるほか、自費出版で一人変名雑誌「週刊オオハシ」
を刊行するなど、今注目を集める新進の漫画家、大橋裕之くんの特集です。
今月もゆっくり、お楽しみください。

【特集】漫画家・大橋 裕之

・大橋 裕之インタビュー
(聞き手 山藤 輝之/SUNTRONIX/月光荘)

・ぼくと太郎と校庭で 〜大橋漫画と私〜(文・沖野正宏(DUB-O))
・大橋くんへのコメント (文・ミルコン a.k.a 前川留美)
・大橋くんへのコメント (文・佐藤 正訓)




【特集】漫画家・大橋 裕之


■大橋 裕之インタビュー
(聞き手 山藤 輝之/SUNTRONIX/月光荘)



<はじめに>

吉祥寺の街で、初めて楳図かずおさんを見た。

赤い帽子に赤いスウェット、明るいブルーのジーンズに赤いスニーカー。
楳図さんは背筋をすっと伸ばして、力強く目の前を見つめていた。
俺はさっき駅で別れたばかりの、漫画家の大橋裕之くんに「今、楳図さんがいたよ」と
携帯でメールを送った。
大橋くんからは、「いいことありますよ!気をつけて帰って下さい」という返信。

その日、吉祥寺のハモニカ横丁のとある居酒屋で大橋くんに取材をさせてもらった。
店に入ってすぐに、スコールのような強烈な夕立が降り始めて、時折大きな雷鳴が鳴り、
カメラのフラッシュのような稲光が見えた。
1時間半ほどのインタビューが終わる頃、激しかった雨はいつの間にか止んでいた。

情緒溢れる漫画と独特のユニークな絵柄で注目を集める新進の漫画家、大橋裕之くん
は、「音楽」、「謎漫画短編集」という単行本に加えて、「週刊オオハシ」という、
一人で変名のペンネームを使い分けて連載をする雑誌(実際には週刊ではないが)を
自費出版で製作している。
最近ではQUICK JAPANで3号にわたり続き物の漫画が掲載されたり、どこかで彼の絵を
見たという人も増えてきていると思う。
チャームポイントは輪郭の突き抜けた目。
まだ大橋くんの漫画を読んだことがないという方には、何はともあれ、まずは彼のBlog
から、彼の漫画の試し読みをしてみて欲しい。

大橋裕之「まんが道」
http://blog.livedoor.jp/ohashihiroyuki/

大橋くんの漫画は、中野ブロードウェイのタコシェや、高円寺の円盤、吉祥寺の
バサラブックスなどで取り扱われているので、気になったら是非実際に手にとってみて
いただきたい。
もう遅すぎるなんていうことは、ないのだから。

大橋くん本人は人当たりのよい好青年だけれども、一筋縄ではいかない作品は、彼の
熱さや独特の視点、感情を伝えてくれる。
それはどこか懐かしくて、新しい風景だ。

もっともっと多くの場所で大橋漫画が発信される日は近い。
このインタビューは、大橋裕之の世界のルーツを探る宇宙入門だ。

※インタビューの最後に、大橋くんからの読者プレゼントの紹介があります。
お見逃しなく!!

<漫画を描き始めた頃>

山藤:絵は昔から描いていたの?

大橋:保育園のときから。
   うちの兄ちゃんが絵がうまかったので、それの真似というか。

山藤:その頃流行った漫画とか描いていたの?

大橋:そうですね。
   絵はキン肉マン、北斗の拳…。
   あと、スーパー・マリオ。
   漫画はコロコロからパクったやつを描いたりしてましたね。
   キャラクターはパクってるんですけど、ちょっと変えたりとか。
   あと、保育園でお店屋さんごっこが流行ってたんですよ。
   そのときに自分でホッチキスで留めた漫画を配ったりしてましたね。

山藤:小学校の頃もそんな感じ?

大橋:そうですね。
   友達に見せたり。
   小学校の時は、1年生のときからオリジナルというか。
   部分部分パクったりはしているんですけど。
   聖闘士聖矢とか。
   兄ちゃんに見せたり、友達に見せたり。
   ほとんど1話くらいで続きがなくて終わるんですけど。

山藤:今描いている漫画も、そういう流れでずっと好きで描いているのかな?

大橋:中学の時は、落書きはしていたけれど、人に見せるとかはなかったですね。
   高校の時は、また描き始めて、友達に見せるようになりましたね。

山藤:その時の漫画って今も残ってるの?

大橋:ありますよ。

山藤:大橋くんの絵は独特だけれど、当時から絵は今と同じようなタッチ?

大橋:目は、あれは19くらいに初めて漫画雑誌に投稿しようと思って、その時に何か
   インパクトがないと駄目だなと思って。
   漫画の目っていうのは輪郭がつながっているかつながっていないかとか色々
   あるんですけど、そのときにぴゅっと突き抜けてみようかなと。
   それがあんまりない感じかなって。
   18か19のときにヤング・ジャンプに初めて出したんですけど、その時に初めて
   目を突き抜けて出してみたと思います。
   それは原稿残ってないんですけど。
   向こうの編集部に捨てられたと思うんですけど。(笑)
   あの目に関してはその辺からですね。

山藤:じゃあ、わりと戦略的に。(笑)

大橋:なっているのかはわからないですけど。

山藤:そのあともずっと同じ目で?

大橋:そのあとにヤング・マガジン・アッパーズに出したと思うんですけど、それも
   多分同じ目で描いたと思うんですけど、それも原稿は残っていないです。
   向こうに捨てられたと思うんですけど。(笑)
   3回目に出したのはヤング・マガジンのギャグ大賞って4コマギャグなんですけど、
   その時は佳作みたいなの貰って。
   でも、担当さんと意見が合わなくて、自分からやめますって。
   オチはこっちの方がいいんじゃないかとか言われるので。

山藤:最初に応募したのはストーリーもの?

大橋:8ページか10ページくらいの、若者がうだうだやってるみたいなのを、
   ヤングジャンプに投稿しました。

山藤:「週刊オオハシ」はコンセプト的に週刊少年ジャンプとかに影響を受けているの
   かなと思っていたのだけれど、どうなのかな?


大橋:漫画で食べていけたらいいなと思っていたので、ネタは商業誌で描くために
   取っておいたものがあったんですけど、自分の絵じゃ商業誌は無理だなと思って。
   「週刊オオハシ」を作る前日にアックスの編集部に持ち込んだんだけれど、
   この絵じゃ駄目だよ、と言われて。
   そこで普通がんばればいいと思うんですが、なぜかがんばれなくて、その次の日に
   もう全部出そうと思って色々な漫画を集めて描くことにしました。

山藤:「音楽」と「謎漫画短編集」を出したあと、どう動こうというのは考えていた
   のかな。

大橋:普通に一冊で完結する単行本を書こうとしていました。
   それか、短編集を作るか、1巻2巻と続いていく単行本を出そうかなと
   思っていて。

山藤:「週刊オオハシ」のアイディアは自分で考えたの?

大橋:それもわかんないんですよね。
   誰かにガーンと一気に出しちゃった方がいいんじゃないって言われた記憶も
   あるんですけど。
   「週刊オオハシ」でいろんな作品を詰め込んで出そうと思ったのは、
   「音楽」と「謎漫画」を出して次ににもう一種類出すのが恥ずかしかった
   というか。
    他にいろんなものをやりたいというのを、一気に出したかった。

山藤:こういうのも描けるよというのをプレゼンするよりは、ただもう描きたかった?


大橋:早く描かないと、先に誰かにやられるというのがあって。
   あと、勝手な思い込みで、次にこんなのが来たかと単純に思われるのも嫌だった
   ので。
   それがちょっと怖いというか。
   ここは一気にちょっと出しちゃおうと。



<大橋漫画の描き方>

山藤:漫画描くときって、キャラクターが先にある感じなの?

大橋:いや、場面が浮かんで、話にもなっていない状態で、ここが描きたいな、
   というか。

山藤:SFが描きたいとかアクションが描きたいとか、そういうのが先にあったりは?

大橋:そういうので考えたりもするんですけど、こういう人がこういう場でいきなり
   こういうことを言ったら面白いなとか、そういうのが多いですね。
   膨らましても面白くならなかったらそれはしばらく置いておいて。
   他のアイディアとくっつけて1個の話にしたりとか。

山藤:漫画のアイディアは日常に考えているのかな?

大橋:考えるというか…降りてくるとか、そういうのじゃないんですけど。(笑)
   普通に電車の中の人を見ていてこの人は面白いなとか。

山藤:現実に見ている人にも影響される?

大橋:そうですね。
   あと、汚い話というか、映画とか漫画観て、俺だったらこうするのにな、とか、
   この場面はいいから物凄くねじまげてパクろうとか、そういうのはありますね。



<受けてきた影響について>

山藤:大橋くんが特に影響を受けた漫画というのは?

大橋:普通にキン肉マン、北斗の拳とかジャンプもの、コロコロの漫画とかは好きで。
   どれが今描いている漫画に影響を与えているかは分からないですけど。

山藤:絵のタッチへの強い影響というのもないのかな?

大橋:本当に努力が基本的にできないので、簡単に描いてそれで許されたらいいなという
   感じで描いているので…。
   あんまり知られていない人だと思うんだけれど、はた万次郎という人とかはいいな
   と思っていました。
   この人の影響ではないんだけれど、この人も相当描き込んでいない絵だったので、
   この人でいけるんなら、と。

山藤:ジャンプ少年ヒトシなんかは、格闘漫画へのオマージュかなと思ったんだけれど、
   どうかな?

大橋:中学、高校と格闘技が凄い好きで、授業中とか人が格闘している絵を描いたり、
   そういうのをしてました。
   あの漫画自体、あんまり格闘技じゃないんですけど。(笑)
   単純に人が殴ったり蹴ったりしているところを描きたかった。
   昔は音楽でも何でもやりたかったし、格闘技だって自分の体が動けば
   やりたかったし、何でもやりたかったので、単純に簡単にできるのは漫画だった
   から漫画を描くようになりました。
   漫画というより、ダウンタウンのコントなんかの影響は強いですね。
   別に目立ちたかったとか表現したかったということはないんですけど、何か
   やれれば楽しいなと。
   別に楽しくないと思いますけど。(笑)
   普通に働くよりは楽しめるのかなというのは思ってました。

山藤:何かやりがいとかそういうものを求めて?

大橋:何でも自信はないので、もしこれで許されるならやりたいなと。
   未だにそうですね。

山藤:漫画は子どもの頃に褒められたりしていたの?

大橋:友達からは褒められていましたね。
   周りよりはうまく描けていたらしくて。
   周りの奴がいうには、描けていないやつは、例えばキン肉マンを描いた時に、
   腕の筋肉の数が異様に多いとか。(笑)

山藤:わかる、それ。(笑)

大橋:それが多分少し正確に描けていただけだと思うんですけど。

山藤:美術の授業とかは好きだったの?

大橋:嫌いですね。
   美術の課題とか図工とか、人と違うのが凄い嫌だったので、人と一緒が良かった。
   なんで自分はいろんなものが皆と違うんだろうって。
   作っていても、周りの人を見て、あんまり自己主張したくないっていう。
   自意識過剰というか、みんなが俺を見ているんじゃないか、何かバカなことを
   しているってバレるんじゃないかっていうのが中学くらいまで続いてました。
   だから本当に、楽しい授業は全くなかったですね。
   勉強ができなかったので。
   勉強は本当に苦手だったので、それは漫画でもそうですね。
   取材して調べてとかがあまりできないので、それが怖いですね。
   自分の中から考えたものしか描けないです。

山藤:じゃあ、もう完全にフィクションで描いちゃうのかな?

大橋:自分の経験も織り交ぜたりはするんですけど。
   取材する気力があれば、歴史漫画でもなんでも描きたいんですけど。
   画力があれば、とか。
   問題がありすぎて描けないですけど。

山藤:学校では普通の子だったと思う?

大橋:目立つ存在じゃなかったと思います。
   女の子と喋るのが凄く苦手だったんで、全然女の子と喋れなかったです。
   男の友達はいたんですけど、相当変な奴に思われてたと思います。
   男連中とはわあわあ話すんですけど、別に前に出るわけでもなく、勉強も駄目、
   スポーツも駄目で女の子とも喋れないし、ずっと変な奴に思われていたと
   思うんですけど。



<「週刊オオハシ」について>

山藤:「宇宙入門」は元ネタになるSF作品とかはあるの?

大橋:あれに関しては全くないですね。
   多分最初に浮かんだのが、冒頭部分なんですけど、宇宙船で一人が喋りかけて
   きて、なんでも良かったんですけど、「トランプどこいったか知らない?」
   って言って無視されるっていうシーンが浮かんだんで。
   で、船員の一人殺したと思ったら生きてて、他の星でスターになってたみたいな
   のが別のネタであって、それをつなげたと思います。
   細かいところは覚えてないですけど。

山藤:細かいシーンから浮かんで描くことが多いのかな?

大橋:多いですね。

山藤:そこから発展したら面白いなと思って描く感じ?

大橋:そのシーンを使いたいので、膨らまして描きます。

山藤:描いていてネタに詰まることは?

大橋:ああ、もうしょっちゅう。

山藤:「週刊オオハシ」は、他に描いてみたい作品はあるの?

大橋:あります。
   それを他の商業誌でやられたらどうしようと思ったり、商業誌への持ち込みの
   ためにとってあって、ここでやるべきか迷っているものもあったり。

山藤:「週刊オオハシ」で描いていて楽しい作品ってどれ?

大橋:描いていて楽しいのはジャンプ少年ヒトシですね。
   ただ単に格闘シーンを描いていて楽しいなって、それだけなんですけど。
   全体で読んでいる人たちに楽しんでもらいたいので、完全に楽しんではいない
   ですね。

山藤:「太郎は水になりたかった」は中学の頃の話だよね。
   その頃の実話とかもあるのかな?

大橋:基本的に、存分に(実話を)描いてますね。(笑)
   その頃は女の子と全然話せなかったんですよ。
   気になりすぎていて、下手に喋ると気持ち悪いと思われたりとか、その自意識が
   強すぎて喋れなかったです。
   今でもあんまり話せないですけど。
   その頃の喋った内容は全部記憶しているぐらい喋っていなかったですね。
   一時期、あまりにも女の子と喋らないくせに男の子と喋るので、人づてに
   聞いたんですけど、噂である女の子が「大橋くんはホモなんじゃないか」
   と。(笑)
   「逆だよ」って。
    こっちは気になりすぎて喋れないのに、それは凄く凹みました。

山藤:中学ぐらいだと、「太郎〜」を読んでいてもそうだけれど、普通に同性と話して
   いるのが面白かったりとか、男子同士でバカやっているのが楽しいとか、
   そういう風だったよね。

大橋:女の子と遊びに行けるなら遊びに行きたかったですけど、喋れなかったので。
   一生無理だと思っていました。
   告白するとか考えられなかったです。



<受けてきた影響>

山藤:漫画はメジャーな、皆が読んできたものを読んできたのかな?

大橋:だと思うんですけどね。
   田舎だったんで、ガロとかそういうのも売っていなかったと思うし。
   お兄ちゃんが3つ上で、AKIRAが好きだったり、ほとんど意味分かってなかった
   ですけど。
   楳図かずおの漂流教室がデカくて、兄弟二人ともなんで買ったか覚えていない
   ですけど、凄く面白くて、ああいう変な感じは好きでしたね。
   兄ちゃんの影響もでかいですね。

山藤:本とか映画は普段観たりしないの?

大橋:あんまり観ていないですね。
   普通の人より観ていないぐらい。

山藤:普段の娯楽は何が多いんだろう?

大橋:TVですね。
   お笑いは結構好きですね。
   胡散臭いUFO番組とか面白味のある科学ものは好きですね。
   そんなぐらいですね。

山藤:音楽はあまり漫画に関係ないかも知れないけれど、大橋くんは地元にいる頃から
   ニーネとかインディーズの音楽を聴いていたんだよね。
   そういうのっていつ頃から好きだったのかな?

大橋:昔はバンドブームでブルーハーツとか聴いていて、友達に借りたり。
   爆風スランプとかジュンスカとか。
   中学の頃はB'zとかZARDとかも聴いていたんですけど、ある一時期、それがなぜか
   嫌になって聴かなくなって、高1ぐらいの時に、奥田民生がソロになっていて、
   久しぶりにユニコーン聴いたら格好いいなと思って。
   そのくらいにBEATLESを奥田民生が好きだし、いろんなところで目にするから、
   BEATLESを聴いてみようと思って、ヒット曲は知らない間に入ってくるから、
   知っている曲は一杯あったんですよ。
   アルバムを買ってみたら凄く良くて、そこからBEATLESの変な曲っていっぱい
   あるじゃないですか。
   サイケデリックな奴とか。
   それに惹かれだしたら、はっぴいえんどとかも聴いたりしだして、友達もQUEENが
   好きだとか、プログレが好きだとかいう奴もいたりしたので、変なのも聴くように
   なりましたね。
   その流れで、変なのって言っちゃあれですけど、インディーズの人達も聴くように
   なりました。
   はっぴいえんどは、雑誌で日本のロックの元祖とか書いてあって、え、どういう
   ことだろう?って。
   細野晴臣とか大瀧詠一の名前は知っていて、この人たちがいたバンドなんだって
   聴いてみたら、これは凄いなって思いました。

山藤:高校生くらいからそういう音楽をいっぱい聴くようになったのかな?

大橋:高校の終わりくらいですね。
   そのときはまだインターネットも誰もがやっているわけじゃなくて、田舎だった
   からレコード屋もそんなに無いし、ラジオとかも聴いてなかったし。

山藤:音楽が漫画に与える影響ってあるのかな?

大橋:あると思いますね。
   なんか雰囲気だったり、詞も好きなので、そういうのもあると思います。

山藤:そういうのを特に影響を受けていそうなアーティストは誰かな?

大橋:ユニコーン、ニーネ、豊田さん、カーネーションとかも、詞からも影響を受けて
   いると思います。



<高校卒業後の進路>

山藤:高校卒業したあとってどんな風にしていたの?

大橋:話長くなるんですけど、簡単にお話します。(笑)
   そのとき、ちょっと頭おかしかったのか、なんかボクシングがやりたいって
   言って、高校を出てからボクシングをやろうとしていたんですけど、
   やるって言ってたわりに、言っちゃってから漫画描きたくなったんですよ。(笑)
   そのときに、一回家出たんですよ。
   出たと言っても地元の愛知県なんですけど。

山藤:その前はボクシングやっていたの?

大橋:やっていないです。
   いきなり。
   目もむちゃくちゃ悪いんですけど。
   その時に周りは皆大学の受験勉強しているんですけど、僕はすることがないから
   遊びに行って適当に漫画読んでいたんですよ。
   で、ヤンマガを読んだら新人賞の募集が出ていたんですよ。
   で、描きたいなと思ったんですけど、周りにはボクシングやるって言って
   あったので、親にも言ったし、どうしようと思って。
   でも、漫画やりたいと思ったまま家を出て、まあジムにも少しは
   行ったんですけど。
   全然向いてなくてしんどいし、嫌になって、そこからは漫画やろうと思って。

山藤:そのあとはずっとプロの漫画家になりたいと思っていたの?

大橋:なりたいと思っていたんですけど、それで佳作を貰ったあと結局
   やめちゃって、実家に帰ったあと、やっとアックスを友達に教えてもらって、
   これならお前いけるんじゃないかって言われたんですけど結局駄目で。
   友達に描いて見せる日々で、たまにヤング・ジャンプとかに送っても何も
   引っかからずで。
   一回就職するんですけど、商業誌に送ってもあまりに引っかからなくて。
   で、どこかで自費出版の知識を得て、これはもうどうにもならないから自分で
   出そうと思ったのが最初ですね。

山藤:就職したときっていうのは、とりあえずしておかないとという気持ちかな?

大橋:なんでしたのか分からないですね。
   前にしていたバイトをやめるときで、次にバイトを探すより就職した方が親も
   安心するかなって。
   あんまり考えていなかったんですけど。
   仕事しながらも、好きなことで食べていけたら一番いいなって考えていました。
   多分中野のタコシェとか高円寺の円盤もその頃に知ったんですけど。

山藤:その時に漫画を見せていた友達は、長い付き合いだったの?

大橋:そうですね。
   保育園、小学校、中学校と。
   自費出版で作る前は本当に友達だけに見せていました。
   自費出版で作ったあとは友達の知り合いとかにも見せたんですけれど、あんまり
   反応が良くなくて、かなり辛らつな意見を友達づてに聞いたりして。



<大橋漫画のテクニック>

山藤:漫画のコマ割りとか構図が凄いなぁと思うんだけれど。

大橋:あんまり考えてはいないですね。
   基本的なテクニックとかも知らないし。
   ネームとか書いて読み直しはするんですけど。
   例えば、二人で喋っている場面でも、二人のアップだけでは、ここがどこなのか
   とか分からないので、とりあえず二人を入れたコマを入れるとか。
   あんまり考えていないです。

山藤:構図で映画に影響されたりとかはある?

大橋:よく言われるんですけど、そんなに映画観ないんで、無いんですよね。

山藤:自分の視点というか、こう見えたら面白いかな、というのは?

大橋:こんなコマいらないだろうなというコマを入れたいな、というのは入れたい
   ですね。
   喋っていないコマとか。

山藤:なんかリズム感を考えたりするのかな?

大橋:がっちり考えてはいないですけど、変なところにたまにリアルなものを入れたり
   とか、喋らなくて間があるとか、そういうところを自然には考えていると
   思います。
   特にそんなに無理やり入れているわけではなくて、自分で読み返して、何か不自然
   というか、速いなと感じたら間を入れたりとか、そういうのはあります。

山藤:漫画を描くときは、先に大筋で話だけ書いたりするの?

大橋:頭の中で何回も何回も考えたりはしますね。
   歩いている時とか寝る前の布団の中でとか。
   それはコマじゃないですね。
   映画じゃないですけど、一連の流れでモノローグから何から。
   頭の中で何回かやってから、これは漫画になるなと思ったら描きます。

山藤:それで一旦描いてからもう一回描き直す感じ?

大橋:そうですね。
   一旦ネーム描いて。
   そういう基礎的なものが全く無いので分からないんですよ。
   ちゃんとできているかどうか。

山藤:そのやり方も自分で考えたりとか自然にやっていることなのかな?

大橋:漫画の描き方的なものも読んだことが無いので、ペンとかも、あのGペン
   みたいなのは使っていないので。
   使ったことがないです。
   インクつけなくていいやつも買ったんですけど、使ってみたらインクが出なくて。
   筆ペンを何種類か使っていて、コンビニで売っているような、太いのと硬いのと
   中間のと、斜線を引くための細いのと、マッキーぐらいしか使っていないです。
   枠線はマッキーの細いので。
   定規で引いたりとかも性格的にできないので。(笑)

山藤:そういうのって、これでいいのかなという不安は?

大橋:不安はありますね。
   未だに。
   多分ずっとあると思うんですけど。(笑)
   お金貰ってどこかで描くというときには事前に聞きますけどね。
   「本当にこの枠線でいいんですか?」って。

山藤:大橋くんの漫画って残酷な描写や性的な描写があまりリアルな感じじゃなくて、
   乾いているなって思うんだけれど。
   今世に出ている漫画よりは少ないかなって。
   そういうのは意識的にしているの?

大橋:いや、特にはないですけどね。
   描く場面が出てくる漫画だったら描きます。
   必然性があれば首が飛んだりとか。(笑)
   ただ、あの絵柄だからリアルにはならないと思いますけど。



<蒲郡と東京>

山藤:大橋くんの地元って蒲郡だよね。
   東京と地元の違いって?

大橋:それはやっぱり、いろんな人に会うので、つながりというか、そこの面白さは
   ありますね。
   ネットじゃなくて直に会うっていう。

山藤:東京に出てから、がーっと拡がったのかな?

大橋:そうですね。
   そこが違いますね。
   単純に仕事をくれたりとか。
   基本的にミーハーなんで、誰か有名人が歩いていたりすると楽しんでます。

山藤:街の印象は違う?

大橋:一駅一駅違いますね。
   それぞれの良いところがあると思います。
   漫画への影響も、これというのはないですけど、あると思います。
   地名とか出さなくても、この街っぽいなと思って描いたり。

山藤:東京に出てきて、地元がよく見えるところは?

大橋:仲の良かった友達がいるので、それはありますね。
   楽しいなっていうのは。
   いつまで東京にいるかっていうのは分からないですね。



<表現する自信について>

山藤:漫画を描くときに、特に表現したいこととかはあるの?

大橋:最初に自費出版をしようとしたときに、俺は自分で凄く面白いと思うけれど、
   周りの人はどう思うんだろうというのが気になっていましたね。
   自信があるという意味が今も分からないですけど、自分の中でこれがいけると
   思っているのが自信なのか、人に見せていけるっていうのが自信なのか、今も
   分からないです。
   人に見せていけるっていう自信は薄いですね。

山藤:でも、今は反響としていい評価は増えているでしょう?

大橋:そうなんですけど、でも。
   自信っていうのは、人に見せてもいけるっていう意味なんですかね?

山藤:ああ、俺はやりきったぜっていう。

大橋:俺の中でこれは凄く面白いけれど、見せようとすると怖いっていう…
   どうなんですかね?
   言葉がちょっと分からないです。
   この絵でいいのかなっていうのはずっと続くと思うんですけど。

山藤:東京に来る前と比べて自信になっているのは?

大橋:やっぱり面白いって言ってくれる人がいるのが違いますね。
   今までは本当に分からないままだったので。
   本当に面白いって思ってくれているのかな?って思いますけど。
   まあ、つまらなかったら声もかからなくなるかなって。
   それはそれでいいですけど、やる気があればそういう状況でも自費出版では
   出そうと思うし。
   絶対に漫画しかないぜ、誰がどう思おうと面白いんだぞっていうのはないです。



<読者へのメッセージ>

山藤:最後に、読者の方へのメッセージをお願いします。

大橋:読んでいる人には…自信満々のことは言えないですね。
   あんまり期待しないでください。
   でも、長く読んでください。



★読者プレゼントのお知らせ★

大橋裕之くんから、3名の読者の方へプレゼントをいただきました!
インタビュー終了後にその場で描いてくれた3枚の直筆イラストを、抽選の上、それぞれ
1名の読者の方へプレゼントします。
応募は下記の募集要項に沿って、Eメールにてお願いします。

・メール件名を「【月光荘】7月号プレゼント応募」としてください。
・本文にフルネームのお名前をご記入ください。
・2008年7月20日締切りです。
・当選の方のみに折り返しご連絡いたします。
・3点のイラストのうち、どれが当たるかは抽選とさせていただきます。
・いただいたメールアドレスは、このプレゼントの当選のご連絡のみに使用します。



ページTOPへ↑



■ぼくと太郎と校庭で 〜大橋漫画と私〜 (文・沖野正宏(DUB-O))

俺が大橋漫画に触れた最初のきっかけはmixi。たまたま大橋くんの足跡がついていて、とりあえず折り返してみたら、どうやら漫画を描いている若者らしいと。ふ〜ん。つって、そこに貼ってあったリンクを更に辿り、UPされてたサンプル漫画を見てぶっ飛んだ。

これやべえええ!!

速攻コミュに入り、次の日中野のタコシェまで走った。いや、マジで文字通り駅降りてサンモール→ブロードウェイ→タコシェまで走ったんだよ。急がないと売り切れちゃう!とか思って。

「謎漫画作品集」と「音楽」を買った。家まで待ちきれなくてマックでむさぼるようにして読んだ。「山」を読んで、こいつはマジで天才だと思った。そのビート感、空気感、なげやりでローリングストーンな物語展開。すべてが最高だった。興奮した。はぁはぁ言いながら「音楽」を読んだ。胸が詰まって泣いた。忘れかけていた「何か」を思い出し、おいおい声をあげて泣いていたら、少し離れた席の女子中学生グループが俺を指差して「キモっ!」

…。

結局、忘れかけていた「何か」とは消費者金融に支払うべき利息のことであり…、まぁ、そんな事は一切関係ない話なので割愛させていただきますが、アレだね。大橋くんの漫画はとにかく優しいよね!じゃ、ここで、とりあえずみんなにはこれを聴いてもらいたい。

ザ・ブルーハーツで「パンクロック」


そういうことなんだよ。優しいから好きなんだ。中途半端な気持ちじゃなくて!!

じゃ、次の曲行こう!

いや、やっぱ行かなくていいか。今も昔もくそったれの世界のために「音楽」は鳴っているんだから。わざわざ確認するまでもない。


あのさ、俺は何の肩書きも持たぬ底辺の派遣労働者だけれど、なるべく明るく正直に生きて行きたいと思っているんだ。だから嘘はつかない。俺を信じろとは言わぬ、だが、これだけは言わせてくれ。


「結婚してください!!」


ごめん。間違えた。大橋くんの漫画はさぁ〜、何度も言うけど優しいんだよね〜。こんなに優しい漫画を描く人を俺は他には知らないね。

ああ、もしもここが八月の、夜と夕方の間、誰もいない校庭に忍び込み、ジャングルジムのてっぺんに座り、ビーチサンダルぱたぱたさせて、さらにはアイスを手に持って、友よ、人口衛星の軌道を目の端で追いかけながら、ぼんやりとふたり宇宙の事を考えている。そんな場面であったなら、友よ、俺は言葉じゃない、例えば口笛ひとつで君に、まるごとすっかり気持ちを伝えることが出来るんだ。

そんな気持ち。そんな気分。いつも大橋くんの漫画を読むと、なんだかいてもたってもいられなくなって、走り出したくなる。(全裸で)


3時間後。


走ってきた!通報されそうになったんで、慌てて玉川上水に飛び込んだら、川の底から得体の知れぬ何者かに足を引っ張られて意識を失った。で、気づいてみたら今ブラジル。どうやら繋がってるみたいね。玉川上水とリオデジャネイロ。ちょうど小野リサが来てるみたいだから、ちょっと見てくるわ!(全裸で)


さらに1時間後。


通報どころか撃たれそうになったので、走って逃げてアマゾン川に飛び込んで、なんとか武蔵野市まで戻ってきた。やれやれ。ホッとしたのもつかの間、また得体の知れぬ何者かに足を引っ張られる…。薄れ行く意識の中で最後に見たものは、火の鳥…。(以後永久にループ)



…俺の考える大橋漫画の魅力をなんとなく適当に文字にしてみるとこんな感じ。嘘はつかない。大橋漫画は最高だ。みんなもどうか頑張って手に入れてほしい。じゃ、火の鳥がうるさいので無限地獄に戻ります…。




つづきはこちらで!
blackbird diaries



ページTOPへ↑



■大橋くんへのコメント (文・ミルコン a.k.a 前川留美)

みるこんは可愛いおんなのこが出てくる漫画がだいすきです。
いままでの人生のなかでのナンバーワンは、
高橋留美子の「らんま1/2」に出てくる天道あかねです。
つよくて、意地っ張りで、でも優しいところもあって・・・
とても可愛いです。
おおはしくんの漫画に出てくるおんなのこも魅力的なのです。
おおはしくん独特のあの目の描き方。
でも、なんだか、
おんなのこの目はちょっぴり色っぽい気がするのです。
あの冷たいような、見透かしているような目と、
あたしの目が合うと、心臓がどきどきしてしまう!
東京行って、またおおはしくんの漫画買いたいな。



ページTOPへ↑



■大橋くんへのコメント (文・佐藤 正訓)

大橋くんと出会ったのは、確か1年半くらい前、ニーネのライブを観に行ったときのことだ。 スタッフの水庭くんが紹介してくれたように思う。はじめは、ご挨拶程度で何も話せなかった。 ただ、そのときに頂いた「音楽」という自費出版の単行本には後日読んで驚いた。 藤子不二雄が別に好きでもないのに、ブログの名前が「まんが道」なのも驚いた。 で、その単行本をディスクユニオンでも販売しないかと持ちかけたのが、大橋くんと親しくなるきっかけだった。 でも、大橋くんと会ってもそんな長話はしない。何だか長々と話す必要もないくらい、僕は大橋くんを信頼している。 大橋くんはどう思っているのか知らないけれども。 今、ユニオンで配布している冊子『トランジスタラジオで聴きたい日本のロック便り』に4コマを連載、またイベント「都会の迷子さん」のチラシのイラストも書いて頂いている。 ホント、お世話になりっぱなしで申し訳ないです。 いつか、恩返しなどできたらと思うのですが、いったいいつになるだろう。 でも、10年後もお互い楽しく個性的な活動をしていけたらと思います。それだけで、もう幸せのような気がします。 頑張りましょう。 僕は、大橋くん、そして大橋くんのまんがにいろいろな気持ちをついつい託したくなります。 これからが本当に楽しみなのです。


ページTOPへ↑